※ 手術後の移植腱(新しい靭帯)や骨孔(新しい靭帯を通すために開けた穴)は8週~12週まではとても弱い状態となっているため、細心の注意を払いながら行います。

2)外来リハビリテーションの頻度

 目安として6ヶ月までは週1~2回、6ヶ月以降は状態に合わせて頻度を調整しています。機能回復の程度やゴール設定には個人差があるため、各患者さんに合わせてリハビリテーションを進めていきます。

通院期間は、再鏡視および抜釘(手術後12ヶ月前後)までを1つの目安としています。再鏡視および抜釘後も最大12ヶ月まで治療を継続することが可能です。

【当院への通院が難しい場合】

 遠方の方や仕事の都合などで当院への通院が難しい方は、医師より自宅近隣の病院、クリニックを紹介してもらうことも可能です。

 

1.ACL(前十字靭帯)について

①ACLの役割

 前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament;ACL)は、大腿骨と脛骨をつないでいる関節内靭帯です。主な役割は2つあり、大腿骨に対して脛骨が前に飛び出さないように制御すること、捻った方向に対して動き過ぎないように制御することです。

左:正面から見たACL 
右:内側から見たACL

②受傷しやすいスポーツ

 バスケットボール、バレーボール、サッカー、ハンドボール、バドミントン,柔道などでの受傷が多く、ジャンプからの着地、急停止、急な方向転換、相手との接触などによって膝関節に異常な回旋力が加わり損傷することがほとんどです。

③ACL損傷

 靭帯は切れた瞬間、”ブチっ”という音とともに痛みを訴える患者さんが多くいます。靭帯が切れることで音が伝わり、同時に膝関節内の半月板なども損傷している可能性があります。

 損傷時には関節内に出血が起こり、膝が腫れてくるため、緊急時の治療としては安静+アイシングが基本となります。

④ACL損傷による影響

 ACLを損傷すると、膝は前後方向および回旋方向の2方向に対して緩くなります。日常的なゆっくりとした動作ではあまり問題になることはないとも言われますが、放置してよいということではありません。膝が突然”ガクッ”と外れるような”膝崩れ(Giving Way)”という現象が生じることもあります。

MRIでみた損傷した前十字靭帯(赤
​直線性がなくなっており断裂してことがわかる

⑤放置による影響

 2-3週間程度で膝の腫れがひいたとしても、損傷した靭帯は自然に治癒することはありません。永続的に膝の不安定性と不安感が残ります。”膝崩れ”を起こしてしまった場合、そのまま放置すると半月板や軟骨などを傷つけてしまいます。それに伴って変形性膝関節症になるリスクも高まっていきます。

 変形性膝関節症は、一般的には高齢者に多い疾患とされていますが、ACLの機能不全によって若年者でも生じることもあります。変形が進行すると、日常生活動作にも大きな支障をきたしてしまいます。

 ひどい場合には高位脛骨骨切り術(High Tibial Osteotomy;HTO)や全人工膝関節置換術 (Total Knee Arthroplasty;TKA)といった手術が必要になってくる場合もあります。

右膝 ACL 損傷を 20 年間放置した 51 歳女性
右膝は関節裂隙が狭小化し、顆間部は骨棘形成を呈している。

⑥筋力を鍛えれば膝の補強になる?

 ”ACL が断裂していても、筋力を鍛えれば何とかなり、手術をしないで良い”という考えは誤っています。なぜなら、膝前十字靭帯(ACL)は自然治癒能が低く、50%を超える損傷を受けると、ほとんどの症例で断端は退縮し、ACL 不全膝と呼ばれる不安定膝となるからです。

 痛みが無くなった=治った訳ではなく、自然に腫れが軽減しただけで、それとともに膝くずれに代表される不安定性の愁訴が患者の症状となります。

⑦診断について

 スポーツ整形外科の専門医による視診、触診(Lachman test)でほとんど診断ができます。これは大腿部と下腿を持ち、動かしてそのずれによる変位量から靭帯断裂による関節のゆるみを判断する方法で、最も確実に判断できる評価方法です。

 そのほかMRIによる撮影も行なっており、こちらの画像を用いて靱帯損傷診断補助ならびに術前、術後の靭帯評価や関節軟骨や半月板など周辺組織の有無などのチェックを行なっています。

2.関節鏡下靭帯再建(二重束再建術法)について

靭帯再建術は日本から世界へ

 当院で行っている関節鏡視下関節内解剖学的二重束再建術は、日本で開発された術式であり、これまで以上の精度が要求される難易度が高い手術です。解剖学的に正常靭帯に最も近似させており、従来法よりも良好な結果が報告されています。

①当院の関節鏡システムについて 

 

 関節鏡視下では侵襲がきわめて小さく、感染の危険性が低いです。明るく十分な広さを有する鏡視術野の中で、手術用 instrument の補助を受けて高い精度の手術が可能となります。最新の関節鏡システム設備は高額であり、関節鏡視下靭帯再建術は一部の専門家による特殊な手術となります。 

 当院では560Pハイディフィニションコントロールユニット3CCDカメラおよびダイオニクス関節鏡システム(smith&nephew)を3セット準備し、高速回転可能な電動シェーバー、電動ドライバー、radiofrequency デバイス(Vulcan EAS ジェネレータ)手術を迅速化するために常備して使用しています。

②手術術式の実際

1)ハムストリング腱の採取

 脛骨近位内側の鵞足部に約3cmの皮切を加え、openタイプのtendon stripperを用いて遊離半腱様筋腱を全長にわたり採取します。20 cm 程度以上あれば半腱様筋腱単独問題ありませんが、18 cm 程度以下であれば薄筋腱を採取し併用します。

​ 遊離半腱様筋腱は横切し、2 本の二重折移植材料(φ6 mm 程度)とします。腱の両端にはそれぞれ2号Ethibond糸をglove sutureし、初期張力を加えておきます。脛骨近位内側の鵞足部に皮切を加え、tendon stripperを用いて半腱様筋腱を採取します。半腱様筋腱を横切し、2 本の二重折移植材料を採型、近位をEndoButton CL に連結します。

2)ACL の郭清と半月板・軟骨の処置

 関節内を鏡視し半月板、軟骨の合併損傷がないか注意深く確認し、半月板縫合などの処置を行います。ACL 遺残組織は電動シェーバーやVulcan RF デバイスを用いて切除し、大腿骨、脛骨の ACL付着部を確認します。

 Vulcan RFデバイスによる ACL 遺残組織の郭清、鏡視下手術の際には、高周波電流よる生体組織の切開、凝固を行います。

3)骨孔作成、移植腱挿入

 靭帯移植のシェーマ骨孔の作製、移植腱作製・挿入・固定、骨孔部位の選定には細心の注意を払う必要があります。仮に正常と異なる部位に骨孔を作成し移植腱の設置を行えば、非解剖学的再建靭帯となり、膝の正常機能が失われます。

【脛骨側骨孔】

 後外側線維束 (PLB)と前内側線維束(AMB)の脛骨側付着部にK-wireを刺入し、それぞれの移植腱の断面サイズに合わせて、6 mm~8 mm 骨孔を作成します。

【大腿骨側骨孔】

 大腿骨外側顆の内面に骨性膨隆のいわゆるresident’s ridgeがあり、その後方にACL付部が存在します。付着部の骨表面は半円状に陥凹しており、 PLB はfar antero-medial portalを利用して、AMBはoutside-inにてこの半円状内に骨孔を作製します。

【移植腱固定】

 移植腱は二つ折で2本作製し、折り返し側にEndoButton CLを設置します。骨孔へPLB用移植腱を挿入し、大腿骨側の EndoButtonを回転させ骨外に固定します。同様にAMB用移植腱の導入を行います。

4)手術時間は1時間程度

3.入院期間と目標について

 以上の手技にてACL 再建術を行い、半月板の合併損傷に対する修復処置を同時に行った場合でも、1時間~1時間半程度で手術はすべて完了となります。

入院期間

 手術後の回復状態にもよりますが、3~4週間を目安にしています。退院時に必要な膝機能として、下記のような目標値を挙げています。

可動域

屈曲   120°

伸展     

②膝機能の目標値

 

スポーツ復帰

ジョギング  

ランニング  

3ヵ月

4ヵ月

ダッシュ 

オフェンス参加 

8ヵ月

ディフェンス参加 

9ヵ月

競技復帰  

10ヵ月

ランニングは3~4ヵ月
スポーツ復帰は8~10ヵ月

 目安として下記のような時期設定をしていますが、各運動を開始するためには医師の許可が必要となります。競技種目によっては復帰時期が異なる場合もあるため、医師と相談した上で復帰時期を決定してください。

再鏡視および抜釘

術後12ヶ月以降、当院にて再鏡視および抜釘術を行います。再建靭帯、半月板、軟骨の状態を鏡視下にて確認し、必要であれば処置を行います。

 

4.リハビリテーションについて

①術前リハビリテーションについて

 手術までに必要な膝機能の条件として、当院では下記のような目標値を挙げています。目標値は当院で行った研究結果を元に設定しています。これらの条件を満たしていない場合、術後の経過不良のリスクが高まるため、術前にリハビリテーションを受けていただくことを強く勧めています。

可動域 

屈曲

伸展 

147°*

膝伸展筋力 10代   57.2%**

20代   63.6%**

30代   69.5%**

40代以上 77.2%**

*   術前で147°以上の膝屈曲角度があれば、術後6ヶ月時に151°以上の角度が獲得可能。

**術前で各目標値を満たしている場合、術後6ヶ月時に80%以上の膝伸展筋力が獲得可能。

詳細は研究論文SALAGAをご参照ください

②術後のリハビリテーションについて

 当院では入院リハビリテーション、外来リハビリテーションの2つがあり、退院後も一貫した治療を受けていただくことが可能です。

リハビリテーションプログラムについては下記をご参照ください。

)入院中の経過とリハビリテーション内容

【術後翌日】

・つま先をつける程度の荷重量で松葉杖歩行を行い、回復室から自室まで戻ります。

・術後より3日間は膝装具を装着し、術後の腫れ防止のため下肢架台に足を乗せた状態で過ごしていただきます。

・午後より身体の状態や、手術創部の痛みに応じて病室にてリハビリテーションを行います。

・ベッドで行える運動やアイシング(患部を冷やすこと)の指導などを行います。

【2日目~】

・リハビリテーション室での訓練が始まります。

・主に可動域訓練、筋力増強訓練、歩行訓練、物理療法を中心に行っていきます。

スクワット:2~3週目

【2週目~】

・片松葉杖にて体重の2/3荷重歩行を開始します。

・クォータースクワットを開始します。

【1週目~】

・両松葉杖で体重の1/3荷重歩行を開始します。

ジャンプ:6ヶ月から

【3週目~】

・杖を使わず、全荷重歩行を開始します。

・自転車エルゴメーター、段差昇降(10cm)を開始します。

【4週目】 

・段差昇降(20cm)、バランスシューズトレーニングを開始します。

・入院リハビリテーションが終了し、退院となります。

・自宅で行えるホームエクササイズを指導します。

5ヵ月

術前リハビリは
重要です!
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